種まきしない農夫
世界がAIに賭ける“本気”と、私たちの慣れた諦め
世界の街頭に流れるのは、もはや“未来”の広告だけではない。インフラも人材も、あらゆる資本がAIへと再配分されている。調査会社ガートナーは、世界のAI支出(投資等)が2024年で約1兆ドル(約155兆円)、2025年には約1.5兆ドル(約232兆円)へと急拡大すると予測する。これは単なる流行ではなく、産業の骨格が全く新しく作り替えられていることを示す数字だ。
その波の先頭に立つのが巨大テック企業だ。Amazonは2025年の設備投資(CapEx)を1,000億ドル(約15兆5,000億円)前後に引き上げ、AWS・Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス)これはアマゾン社の“クラウド事業”を担う部門で、現在は世界最大のクラウドコンピューティング・プラットフォームだけでも電力容量を数年で“倍々”にする計画を公言している。データセンターの電力を数年で“倍々”にする、という言葉は、もはや工場の増設や店舗出店とは異次元に違うスケール感だ。
現在大赤字のOpenAIもまた、今後4〜5年で1.44兆ドル(約223兆円)を「Compute(計算資源)」に投じる計画を明らかにしている。業界全体の需要はエネルギーやサプライチェーンの限界とぶつかる。つまり、AIの支配権は“モデルを作れるか”だけではなく、“その計算を支える物理世界の力”を握る者に移っている。
では、その投資は企業の“稼ぎ”と比べてどれほどの規模か。ざっくり言えば、主要テック企業の年間純利益を一つの基準にすると、設備投資は“利益の0.7倍〜2倍”程度のオーダーでぶつけられている。Amazonは2024年の純利益が約592億ドル(約9兆1,700億円)で、2025年のCapEx目標は1,000億ドル(約15兆5,000億円)前後。MicrosoftやMeta、Googleも同様に、利益に匹敵する、あるいはそれを何倍も上回るAI投資額、AI設備投資を公表している。要するに「稼いだ分をそっくり、企業によっては数倍もAIの未来に突っ込む」構図だ。
しかも莫大に稼いで居ても来るべきAI時代に備えて従業員をガンガン減らしながらの莫大な投資である。
ここで日本の話をしよう。私たちは長年、「安全第一」「慎重な蓄え」「先を急がない」ことを良しとしてきた。大企業は大幅円安で生まれた利益を延々と内部留保で2024年度末時点の総額は前の年度と比べて6.1%増え、637兆5316億円・・つまり経営に「投資しない経営者=種まきしない農夫」と同じである。当然だが”収穫”など有ろうハズが無い!
だが、世の中には“先送り”と“投資しないこと”の違いがある。先送りは問題を後ろに押しやる行為だ。投資しないことは、変化に対応するための基礎体力を自ら放棄する行為だ。米中の巨額投資が“未来の物理インフラ”を築く間に、日本は議論だけで終わらせてしまっていないか——そんな恐れがある。
皮肉を込めて言えば、日本の良さは「完璧さを求める」ことだが、最近は何も行動しなくて完璧を待つ状態が続いている。妄想の完璧を待っているうちに世界の相場は終わってしまう。完璧な計画書ができる頃には、勝負は“資本の厚さ”で決まっている。AI人財と資金と電力とデータセンターを握る者が、次の産業規模と規則を決める。そこに入り遅れると、単に市場を失うだけでなく、重要な規範やルール形成のテーブルからも外されるリスクがある。
もちろん、盲目的な投資礼賛は危険だ。バブルや無駄もあるだろう。しかし、バブルの可能性を恐れて手をこまねいているうちに、国家や産業の“基礎筋力”が奪われるとしたら? 私たちの“慎重”が、いつの間にか“無関心”に変わってはいないか。安全策の名を借りた放置は、未来への借金(莫大なデジタル赤字・政府予測は2035年赤字▼45兆円)を増やすことになる。
当然、負け組国日本は複数の大災害も到来し、インフラ更新も不可能となる可能性が高く円はさらに安くなっていて売るものは無い訳だから・・デジタル赤字やエネルギーや食糧等々の貿易赤字は・・・2035年、最悪▼100兆円/年・・・を超えても不思議では無い。
結局のところ、問いは単純だ。私たちは「変化に備えて、何を残し、何を捨てるのか」を真剣に決められるか。道を間違えれば、後から「惜しかったね」と笑える余裕すら無くなる。すでに追いつく事は不可能だろう。まずは、議論を止めること——そして、小さくてもいい、確かな賢くシュリンクして自給自足率を高める投資を始めること。未来は待ってくれない。ましてや“悪慣れ”で崩壊(誰からも相手にされないガラパゴス化)する日本を、私は見たくないのだ。
日本の”世界の夕張化”は・・かなりの確率で到来しそうである。

